男は、怒っていた。
「あいつ、俺をこんなに傷つけるなんて…」
男は、薬局に行き、薬剤師に文句を言った。
「俺は昨日、あいつを傷つけてやろうと思って、ここでこのエネルギー増強剤〝キズツケール(相手を一撃!)〟を買って飲んだんだ。でもぜんぜんあいつを傷つけたって感じがしない。効いていないじゃないか。どうなっているんだ」
「お客さま、〝キズツケール〟と〝キズツケラレール〟は、両方セットでしかお売りできませんし、お飲みになれません」
「なに? キズツケラレール? なんだ?それは。俺は、そんなもの買って飲んだ覚えはないぞ。しかもセットで飲むなんて…。現にさっき、俺だけが傷つけられたんだ。俺はあいつをちっとも傷つけていない。俺は、一方的な被害者だ」
「お客さま、この商品はこうなっております」
薬剤師は、〝キズツケール〟の瓶をひょいっと裏返した。
「キズツケラレール、、、自分を一撃、、、だと…? この薬の瓶に、こんな裏面なんてあったのか…」
たしかに、俺はろくに薬瓶の裏面を確かめもせず、グイッと飲んで容器を捨ててしまった。しかしまさか、こんな裏面があったとは…。
「お客さま、〝キズツケール〟と〝キズツケラレール〟は、同じ相手に作用するとは限りませんし、相手に〝キズツケール〟をご使用になったことに、お客さまが気づくとも限りません。まあ、みなさま、キズツケラレールの効能の方は非常に分かりやすく感じられる方が多いのですが、キズツケールの方は、傷つけていない!使っていない!と言い張る方が多くて…。しかし、両方セットでしか、この薬のエネルギーは作用いたしません。これはもう、完璧なまでの効果でございます」
「そんなバカな…」
男はがっくりと肩を落とした。
「お客さまのように勘違いをなさる方が多く、ややこしいので、同じ成分で改名だけした新商品がございます」
薬剤師は、棚から新しいパッケージの瓶を取り出した。
「キズツケアウール…」
「相手も自分も一撃…」
落ち込んで薬局を出て行こうとする男の背中に、薬剤師は なおも話し続けた。
「お客さま、他にもこんな商品がございます。
ヒハンシアウール、ツメタクシアウール、ウバイアウール、、」
エネルギーのお薬は、用法、用量をお守りの上、ご利用ください。